東大雪三山 ~ ウペペサンケ山・石狩岳・ニペソツ山
大雪山国立公園の東部に位置する東大雪。昔は裏大雪と呼ばれていて、太古の面影を残す奥深い山域です。その東大雪には、代表的な三山があります。それが、ニペソツ山(2,013m)、石狩岳(1,967m)、ウペペサンケ山(1,848m)です。今回は、これら三山をご紹介します。
※ニペソツ山は悪天候のフィルム撮影しかないので、良い写真がありません。
1.東大雪の山の特徴
東大雪の山々の登山道は、表大雪や十勝岳連峰のように整備されていません。どの山も最低限な登山道の管理に留まり、避難小屋もありません。そして、日帰りがぎりぎりなほどの登山時間がかかります。危険な場所はあまりありませんが、トラブルが発生するとビバークを余儀なくされます。日帰りでも複数日の食料と野営設備が必要でしょう。
それでも、メインルートであれば、道が分からないという場合はなさそうです。昔は笹で覆われて、どこが登山道なのか分からないことも多くありました。これは、ぬかびら源泉郷にガイドセンターやビジターセンターができたり、上士幌に環境省のレンジャーが常駐することになったことも大きいでしょう。
今はぬかびら源泉郷以外に人がほとんど住んでいませんが、昔は十勝三股に1,000人以上の人が住んでいました。また、国鉄士幌線があっただけでなく、十勝三股から森林鉄道が山奥の岩間温泉付近まで伸びていましたし、幌加にも住人がいました。決して今のような人の住まない秘境ではなかったのです。そんな過去を感じながら登山しましょう。
2.ニペソツ山
ニペソツ山は、東大雪で唯一の2,000m峰で、盟主です。そして、登山を趣味とする人に対しては、北海道でもトップクラスの人気を誇ります。特に、天狗岳から見る鋭いニペソツ山の山容は、登山者の心を掴んで離しません。絶対に一度は登るべき山です。
そんなニペソツ山ですが、今使える登山道は幌加温泉コースのみになってしまいました。2016年台風により、それまでのメインルートだった杉沢コース(16の沢コース)が使えなくなってしまい、廃道に近かった幌加温泉コースが昇格してメインルートになりました。しかし幌加温泉コースは、健脚者でないと日帰りするのが難しいのが現状です。
以前の幌加温泉コースは、整備が悪い登山道として知られており、迷って敗退したり、間違って幌加川の方へ降りてしまう人までいるほどでした。今はメインルートとして昇格したので道に迷うことはありませんが、長い距離を歩かなければなりません。自信がない方は、天狗岳付近で野営が必要でしょう。夏季は携帯トイレブースも用意されます。
さらに私も知らないですが、昔は岩間温泉から登るコースがありました。今じゃ信じられませんが、岩間温泉付近まで森林鉄道があって(今の御殿大橋付近まで)、道も整備されていた関係でアプローチしやすかったのでしょう。
天狗岳からのニペソツ山は絶壁に見えるので、どこを登るのだろうと不安になりますが、うまく斜面をトラバースして頂上へ行くことができます。鎖場などの危険個所もありませんが、絶壁の淵を通る部分がありますので注意して歩きましょう。
登山者に人気のナキウサギですが、一番その姿を見ることができる山はニペソツ山だと思います。見れなくて困っている人はぜひ行ってみてください。(見れるとは限りませんが)
3.石狩岳
「登山ルートは、登った時のGPSログを元に作成しました」
石狩岳は、北海道一の大河、石狩川の源流に位置する石狩山地の盟主です。高さこそ表大雪に譲りますが、表大雪は土台部分に火山が噴出して高くなっており、その土台の一番高い部分が石狩岳と言えます。また、ニペソツ山やウペペサンケ山も火山なので、やはり土台部分は低いです。このように、石狩岳は北海道の基盤を成す山だと思います。
石狩岳への登山は、シュナイダーコースという岩尾根を登る日帰りが主体です。シュナイダーコースは、大雪山系では珍しい急登のコースです。でも整備状況が比較的良いため、効率的に高度を稼げます。昔は下部が笹に覆われていてコースがはっきりしないことから、下山に使っていました。
また、昔は十国峠を経由してブヨ沼に泊まり、音更山、石狩岳へ登ってシュナイダーコースを降りるのが主流でした。そしてシュナイダーコースを降りた後に21の沢を歩かなければならないこともあり(冷たくて大変だった)、シュナイダーコースを登りに使うのは避けられていました。今は随分と登りやすくなりました。
石狩岳の山頂標識は1,966mピークにありますが、さらに先の沼の原側に1,967mピークがあり、今はここを山頂とする場合が多くなりました。往復の時間はかからないので、ぜひ行きましょう。西側の石狩川源流域、沼の原、五色が原などの眺めが素晴らしいです。
石狩岳へのアプローチも2016年台風の影響を大きく受けており、音更川本流林道が復旧未定のため、大きく遠回りして登山口へ行かなければなりません。状況は北海道森林管理局のサイトを確認してください。
登山後に岩間温泉で汗を流したいところですが、林道がやはり破壊されていて、川沿いを歩く必要があります。車で行ける時代は、しばらくは来ないでしょう。
4.ウペペサンケ山
ウペペサンケ山は、遠くから見ると山頂部が平坦で長く見える、登りやすそうな山です。しかし、山頂部は平坦ではなくてアップダウンの連続で、一部は滑落に気を付けなければなりません。登山時間もかかりますから、油断をせず、十分な準備をして登ってください。
ウペペサンケ山の登山道は、糠平川の林道からの糠平コースになります。以前は菅野温泉側からの2つのコースがありました。特に西コースは最短で頂上に着けるので良かったのですが、どちらも使えない状態です。
糠平コースの登山ですが、これほど山頂が遠くに感じる登山は少ないです。それは、幾つものピークを越える必要があるからです。最初の1399mピークで一息付くまではいいですが、次の1,610mピークまでが意外と時間がかかります。そして着いたあとに糠平富士(1,835m)までの長い道のりが待っています。
普通なら糠平富士に着いた時点で山頂ですが、これから先も40分ほど本峰へ歩かなければなりません。本峰とは10mちょっとしか差がないのにアップダウンがあり、一部は幅の狭いリッジ状の場所もあります。雪が残っていると、遥か谷底まで滑落します。正直、糠平富士で終了でも良いと思います。
しかし、昔は西ピーク(1,836m)がウペペサンケ山山頂でした。本峰は通過点でしかなかったのです。そのため、糠平富士から西ピークの往復だけでも、大変なアルバイトを強いられました。だから西コースが効率的で良かったのです(整備は一番悪かった)。
ウペペサンケ山は、三百名山にも選ばれていないという冗談のような不遇の山ですが、登山の楽しさ、厳しさは一級品です。ぜひ、登ってみてください。
5.高山植物がきれい
東大雪の山々も高山植物が多いです。今回紹介した三山にはコマクサが咲きますし、ニペソツ山にはツクモグサが咲きます。コマクサは石狩岳に多く咲くのですが、大群落は登山道から外れています。また、登山道のない某山にもコマクサがいっぱい咲いているとレポートがありました。
東大雪では、特にトムラウシ側に人の入らないエリアがあります。まだまだ、人知れず高山植物の天国があるのかもしれません。
6.登山スキルに自信が着いたらぜひトライ!
東大雪三山は、登山初心者にはちょっと厳しい登山を強いられます。それでも、石狩岳登山では、笹漕ぎや渡渉がなくなって登りやすくなりました。対してニペソツ山やウペペサンケ山は、自然災害によりルートが変わり、登りにくくなりました。
東大雪三山に登るには、中級山岳レベルまで登山スキルをアップし、ビバークなどの非常事態に備えられるようになってからトライして欲しいです。東大雪のような下界と隔絶した山へ登ることで、登山の達成感が一際高く感じられるでしょう。